専門図書館266号(2014年7月)特集:専門図書館と建築物(詳細)
- 特集「専門図書館と建築物」にあたり【p.1】
- 夢の帝国図書館と国際子ども図書館の夢【p.2-9】福井 祥人(国立国会図書館国際子ども図書館主任司書)
- 上野にある国際子ども図書館の建物は、明治39(1906)年に帝国図書館として建築され、昭和4(1929)年に増築されたものである。東洋一の夢の図書館を目指して建築された豪壮華麗な建物ではあるが、予算不足のため当初構想の3分の1が建設されるにとどまった。このため、帝国図書館は慢性的に閲覧室・書庫の不足に悩む苦難の歴史を歩むこととなった。平成になって国際子ども図書館の建設が決定されると、この建物を再生利用することとなり、保存と活用という難しい問題に取り組むこととなった。平成14(2002)年に竣工した建物は、そうした難題をクリアしたものであったが、建物の制約のために、図書館としての機能面では課題が残ることとなった。平成27年度の増築棟竣工・既存施設の改修により、国際子ども図書館の機能は十全のものとなり、あわせて帝国図書館時代からの懸案であった閲覧室・書庫の狭隘の問題も解決することとなる。
- 建館110周年「大阪府立中之島図書館・建築の歴史」【p.10-16】小笠原 弘之(大阪府立中之島図書館ビジネス支援課 司書)
- 大阪府立中之島図書館は今年開館110周年を迎えた。住友家の寄付を受けて明治37年に誕生した中之島図書館は、西洋の建築様式を取り入れた近代建築としても名高く、昭和49年には国指定重要文化財に選定された。建物は正統なルネサンス様式の外観とバロック様式の内部空間を基本とする。建物正面のポーチはコリント式円柱とペディメント、玄関扉とその上のアーチによって構成され、ギリシャ神殿を彷彿とさせる。建物内部の円形の中央ホールは大階段とそこから続くギャラリー(廻り階段)、ステンドグラスを持ち、ダイナミックで動きのある造りとなっている。明治後期に大阪に誕生するに至った経緯とともに、本館を設計した野口孫市、建築にあたっての手本となったパラディオの「ヴィラ・ロトンダ」にも触れつつ、中之島図書館建築の中心でありつづける「本館」を中心に紹介する。最後に、本館設立以降の増築、改修の流れを述べて、現在に至る中之島図書館の建築の歴史を振り返る。
- 歴史的建造物の保存と金沢市立玉川図書館近世資料館の取り組み【p.17-23】宮下 和幸(金沢市立玉川図書館近世史料館)
- 金沢市立玉川図書館近世史料館は、外様最大の大名家である加賀前田家の藩政史料を中心に、県内の郷土史料も収集、保存する施設である。現在、近世史料館となっている建物は、旧日本専売公社の煙草製造所として大正初期に完成したものであるが、昭和に入り解体された際、建物の一部は保存され、登録文化財に指定されている。そして、大規模な改修を経て現在の姿となり、貴重な史料群の保存施設としての役割を担っている。近世史料館の業務は収集、保存、活用と多岐にわたるが、加越能文庫を中心とする貴重な史料群をいかに保存し後世に伝えていくかが何より重要な責務である。また、今後期待される役割としては、積極的な発信、つまり史料の積極的な活用が挙げられるが、トレードオフの関係である保存と活用をいかに両立させていくべきか。これは地域貢献にも繋がるものでもあることから、近世史料館として十分に検討しながら進めていくべき問題である。
- 形式は信念の具象である―精神文化図書館の建設―【p.24-30】平井 誠二(大倉精神文化研究所附属図書館)
- 大倉精神文化研究所附属図書館は、研究所本館(現横浜市大倉山記念館)の中にあります。創設者大倉邦彦は、精神文化事業に懸ける自身の強い信念を建物の形や研究所の敷地全体で具現化して示しました。研究所本館は特色ある建物ですが、単なる入れ物ではなく、建物と研究所と附属図書館は一体不可分であることをご説明します。
- 資料保存を意識した図書館建築論 東京大学経済学部資料室の建築設計とその考え方 【p.31-36】小島 浩之(東京大学大学院経済学研究科講師・経済学部資料室長代理)
- 本稿では、資料保存を第一に考えた図書館施設・建築のあり方について、東京大学経済学部資料室における建物の設計・建設を例に分析する。東京大学経済学部資料室は、歴史的資料や貴重資料を保存しているため、利用者環境を中心に立論される一般的な図書館建築論はそのまま適用できず、博物館学や文化財保存科学における議論に基づき設計した。設計段階で最も重視すべきことは、断熱・防湿環境の構築に尽きる。これは、資料の劣化が化学変化である以上、高温・高湿下で劣化の進行が早まるからである。本稿では、この断熱・防湿の環境をいかに維持し、相乗的に効果を上げる方向に導くか、さらには予想されるリスクをできる限り事前に回避できることを考慮した建材の選択や、部屋割り(ゾーニング)の方法を中心に論ずるものである。
- ごぞんじですか? 第92回【p.37-40】紀平 宏子(国際基督教大学図書館)
- 専門図書館を見る 第214回【p.41-45】阿部 麻里(凸版印刷㈱印刷博物館ライブラリー)
- 私の仕事、わたしの一日 第16回【p.46-47】大和田 陽子(NTT武蔵野研究開発センタ図書館)
- 資料紹介【p.48-50】山本 順一(桃山学院大学)/藏野由美子(星薬科大学図書館)
- 専図協一元化記念講演【p.51-60】新田 満夫(株式会社雄松堂書店 会長)/大滝 則忠(国立国会図書館長)
- 平成26年度専図協イブニングセミナー(関東地区)報告【p.61-63】藤懸 徳仁(亜細亜大学学術情報部学術情報課)
- 教育プログラム【p.64-67】森部 隆((公社)全国市有物件災害共済会 防災専門図書館図書課長)
- 教育プログラムアンケートから【p.68】研修委員会
- 専門図書館員のための認定資格制度設立に向けて(2):先行制度をふまえた本制度の概要【p.69-75】運営委員会認定資格検討小委員会
- 開催予告:第4回アジア専門図書館国際会議(ICoasl2015)【p.76-77】佐藤 京子(SLAアジアン・チャプター日本代表、ICoASL2015開催委員会アドバイザー)
- 事務局だより【p.78-81】