専門図書館283号(2017年5月)特集:図書館における障害者サービス(詳細)

特集「図書館における障害者サービス」にあたり【p1】
図書館の障害者サービス(図書館利用に障害がある人へのサービス)【p2-8】
佐藤 聖一(埼玉県立久喜図書館)
 図書館の障害者サービスは、障害者への対象別・特別なサービスではありません。恩恵的福祉的なサービスでもありません。障害者サービスは図書館利用に障害のある人々へのサービスであり、その目的はすべての人にすべての図書館サービス・資料を提供することにあります。簡単にいうと、誰もが使える図書館にすることです。
 2016年4月1日から障害者差別解消法により、図書館等の公的機関に障害者への合理的配慮の提供が義務付けられました。この法律でいう、「不当な差別的取扱いの禁止」「社会的障壁を除去するための合理的配慮の提供と、基礎的環境整備」の意味を明らかにし、従来の障害者サービスとの関係を示します。
 ここで分かってきたことは、障害者差別解消法は、従来の正しい障害者サービスを理論的に裏付けることになったということです。それはつまり、図書館にはすでに多くの実践例があると言い換えることもできます。
視覚障害者のための図書館「日本点字図書」の事業について【p9-14】
杉山 雅章(社会福祉法人 日本点字図書館)
 日本点字図書館は、民間の社会福祉法人立の点字図書館(視聴覚障害者情報提供施設)です。視覚障害者及び視覚による表現の認識に障害のある方を対象としており、図書館利用者の60%以上は60才以上の高齢者です。ここでは高齢者への配慮例を紹介したり、50代以下の現役世代のニーズへの対応例などを紹介してします。また、視覚障害者のQOL(生活の質)の向上のために点字教室やパソコン教室を開設したり、便利なグッズ(用具)の販売を行っており、そこから図書の利用につながっていくケースもあります。日本点字図書館では、図書館利用と視覚障害者のQOL向上の両面から、視覚障害者の人生を豊かにする支援ができるよう事業を進めています。
熊本県聴覚障害者情報提供センターの取り組みについて【p15-21】
小野 康二(熊本県聴覚障害者情報提供センター)
 熊本県聴覚障害者情報提供センターは、身体障害者福祉法34条に規定され1992(平成4 )年に開所した施設である。法制化された頃はテレビ番組等に字幕(手話)がほとんどなく、施設のメイン事業はテレビ番組等へ字幕(手話)付加ビデオの制作と貸し出しだったが、昨今はテレビ番組にはほとんど字幕があり、その必要性は低下している。ただ、聴覚障害者に分かりやすい字幕制作は聴覚障害の特性についての理解が必須である。年々施設が取り組む事業は広がり、映像制作も独自番組の制作にシフトしている。
 2016(平成28)年4 月熊本地震が起きた。地震でのセンターの聴覚障害者支援の取り組みと課題を紹介し情報提供施設のあり方を考える。
日本図書館協会障害者サービス委員会の活動【p22-27】
新山 順子(日本図書館協会障害者サービス委員会)
 障害者サービスとは、すべての図書館で取り組まなければならない基本的なサービスであり、「障害」を持っているのは利用者ではなく図書館側である。この考え方は未だに図書館界に浸透しているとは言い難く、障害者サービスの実施率は低い。すべての人が図書館サービスを利用できるようになるために、本委員会の目指すところを明らかにすると共に委員会が行っている活動を具体的に詳しく紹介した。
DAISYを活用した障害者サービスの推進
 ~日本障害者リハビリテーション協会の取組みを通して~【p28-33】
野村 美佐子(日本障害者リハビリテーション協会)
 DAISYとは「Digital Accessible Information SYstem」の頭文字で、日本語では、「アクセシブルな情報システム」と訳す。当初は、視覚障害者のみを対象に開発されるが、その後マルチメディアDAISYとして発展を遂げ、現在は、プリントディスアビリティ(印刷物を読むことに障害)のある人々を対象にしたデジタル録音図書の国際標準規格の開発が進む。この開発と維持を担うのが、非営利国際団体DAISYコンソーシアムである。日本では、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のもと、図書館の合理的配慮としてDAISYの活用に注目が集まっている。本稿では、日本障害者リハビリテーション協会におけるDAISYの取組みを紹介するとともに、DAISYおよびDAISYと連携するEPUB 3 について解説し、図書館の障害者サービスにおけるDAISYの可能性を考える。
障害者の方も読書しやすい環境 ―用品、施設からサポート―【p34-39】
木原 正雄(キハラ株式会社 マーケティング部 次長)
瀬良垣 守人(キハラ株式会社 設計室 課長)
宇田川 恵子(キハラ株式会社 マーケティング部)
 本稿ではまず、ディスレクシアの定義と、読みが困難な人はテキストがどのように見えるかについてのいくつかの例を取り上げます。そして読書をサポートする用品“キハラリーディングトラッカー”を、最後に、車いすでの移動を考慮した施設計画と、障害者に対応した家具の機能や形状について紹介します。私たちは、障害の有無に関わらず互いに支え合う社会に向けて、企業活動を通じてよりよい読書環境の実現に貢献します。
altmetricsの概要と近年の動向について【p40-43】
坂東 慶太
公益財団法人 日本交通公社 旅の図書館【p44-47】
上野 真知子
特色ある県立図書館に勤務して【p48-49】
松本 ひかり
図書館のアクセシビリティ「合理的配慮」の提供へ向けて【p50-51】
返田 玲子
新しい時代の図書館情報学(補訂版)【p51-52】
名城 邦孝
専門図書館協議会平成29年新春講演会・賀詞交換会へ参加して
 講演会「伝わらない時代の伝わるコミュニケーション」【p53-54】
古田 明子
平成29年新春講演会・交歓会(中部地区)実施報告
 「気付きを上げる実践型研修」【p55】
小室 利恵 加藤 由美子
平成29年新春講演会(関西地区)参加報告
 「走る! つなげる! ひろげる!専門図書館のブランディング」に参加をして【p56-57】
梅澤 栄子
わが国の私立図書館の実態を探る
―私立図書館実態アンケート調査結果報告―【p58-66】
専門図書館協議会私立図書館小委員会
事務局だより【p67-69】事務局
各種セミナー報告【p70】事務局