専門図書館289号(2018年5月)特集:資料を保存する(詳細)

特集「資料を保存する」にあたり【p1】
国立国会図書館における予防的資料保存対策
 ―環境管理の取組について(実例報告)【p2-5】山口 佳奈(国立国会図書館収集書誌部資料保存課)
国立国会図書館における予防的資料保存対策のうち環境管理の取組について、保管環境と展示環境の温湿度管理及び虫菌害対策を中心に紹介する。資料保存担当と施設担当、資料・書庫管理担当、資料収集担当が連携協力することで予防的資料保存のための全館的な体制が整いつつある。自館の事情に即した実例報告であるが、各図書館で対策を講じる際の一助となることを願う。
ブックキーパー大量脱酸性化処理における品質と工程【p6-9】
横島 文夫(株式会社プリザベーション・テクノロジーズ・ジャパン)
1980年代に米国において開発された同技術の特徴は、人体や環境に対して安全な材料が用いられ、長期的な保存効果が実証されている点です。紙資料を液体に浸漬させる同技術では、簡易補修を組み合わせることで、より安全な脱酸性化処理を実施します。また、事前の状態点検作業を通じて紙質や記録材料における処理への適合性を常に確認しながら作業を計画します。
酸性紙の大量脱酸処理
 乾式アンモニア・酸化エチレン法〈DAE法〉について【p10-13】須藤 猛彦(日本ファイリング株式会社)
紙資料の保存対策は環境対策と直接的処置とに大別される。前者は最適な温湿度に保つ、中性紙箱に入れ保護する等がある。後者は紙そのものの強化と劣化抑制処置があげられる。DAE法は酸性紙に対しての劣化抑制処置であり、紙資料が保有する残存寿命に対し、約3~5倍の延命が図れる。貴重な文化遺産である紙資料を未来に繋ぐ処置であると考える。
専門図書館とデジタルアーカイブ【p14-20】
時実 象一(東京大学大学院情報学環 DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座 高等客員研究員)
専門図書館がデジタルアーカイブを行う上での諸問題、すなわち、著作権、肖像権、所有権などの権利問題、デジタル化の方法とメタデータ、公開と活用などについて議論した。
光ディスクによるデジタルデータの長期保存【p21-26】竹島 秀治(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)
光ディスクは、堅牢性が高くデータの長期保存が可能であるという特性を持っており、博物館、図書館、公文書館などで活用されている。長期保存用に設計・生産された光ディスクには推定寿命が数百年に及ぶものがあり、最適化された専用ドライブを用いて記録することにより最高性能の達成を実現可能である。光ディスクを用いたシステムには用途に応じて多様な選択肢があり、光ディスクをフラッシュメモリ、ハードディスク、テープ等、複数の記録媒体と組合せ、それぞれの特長を活かした使い方が可能となっている。また、耐久性の高い光ディスクの性能を維持するためには取扱いも重要であり、光ディスクの取扱い上の注意点についても紹介した。
資料を災害から守り、救うために【p27-32】眞野 節雄(東京都立中央図書館資料保全専門員)
人の安全のための防災マニュアルは作成され、訓練も行われているが、図書館において、資料を守り、救うためのマニュアルは?訓練は?資料保存の最大の敵は人災も含めて「災害」ともいえる。そのため、資料の災害対策に関する「教科書」や文献は数多くある。しかし、いざ自分のところで災害にあったらどうするか、そのための実効的なマニュアルは日本では皆無といってよい。それでいいのだろうか? 図書館には、守り、救わなくてはならない資料は存在しないであろうか?図書館資料の価値は千差万別であるが、公立図書館であれば、どんな町でも、郷土資料という図書館が守り抜かなくてはならない資料もある。専門図書館には「お宝」コレクションも多いし、蔵書自体が特殊で貴重な資料の場合もあるだろう。東京都立図書館で作成したマニュアルを紹介し、資料を守り、救う手立てを考えたい。また、資料を守り、救う「志」を東日本大震災で被災した陸前高田の事例を通して共有したい。
新潟県中越地震・東日本大震災と長岡市災害復興文庫
 ―自然災害発生時の資料保存をめぐって―【p33-38】田中 洋史(長岡市立中央図書館文書資料室)
長岡市立中央図書館文書資料室は、新潟県中越地震発生から10年目の平成26(2014)年度に長岡市災害復興文庫を開設した。長岡市災害復興文庫は、被災歴史資料、災害復興関連資料、歴史公文書から構成され、市民ボランティアと協働しながら資料保存に取り組んでいる。小稿では、「文庫」開設の動機と背景、「文庫」の構築・発信方法、市民や関係機関・団体との協働・連携のあり方、の3点を視点として、自然災害発生時の資料保存のあり方を紹介した。
資料保存のwhyとwhat
―企業ライブラリー篇―【p39-44】安江 明夫(専門図書館協議会顧問、資料保存コンサルタント)
図書館蔵書の保存では補修、虫カビ対策、酸性紙問題などの技術的取組みが中心課題となりがちである。しかし、専門図書館、特に企業ライブラリーの場合は、「なぜ」「何を」「いつまで」保存するかと言うマネジメント的側面の考慮が肝要である。小稿では、この企業ライブラリーの場合を例にとり、そこの図書館資料について、なぜ、何を、いつまで保存するのか、の問題提起を行う。その際、企業ライブラリーの蔵書を異なる性格を有するサービス・コレクションと歴史コレクションの2 つに分類して論じ、かつ歴史コレクションと親近性が高い企業アーカイブズ(記録・史料)の管理について触れる。
SPレコードのデジタルアーカイブ「歴史的音源」【p45-48】石塚 陽子(国立国会図書館 関西館 電子図書館課)
みどりの図書館 東京グリーンアーカイブス【p49-53】西川 明美(NTT横須賀研究開発センタ図書館)
昨夏、開架の書庫に発生した黴の対策に追われて【p54-55】堀越 葉子(ドイツ日本研究所図書室)
トップランナーの図書館活用術
  才能を引き出した情報空間【p56-57】今井 福司(白百合女子大学基礎教育センター)
情報リテラシーのための図書館
  ─日本の教育制度と図書館の改革─【p57-58】野末俊比古(青山学院大学教育人間科学部教育学科)
事務局だより【p59】事務局
各種セミナー報告【p60】事務局