専門図書館312号(2023年3月)特集:デジタル資料の長期保存(詳細)

特集 デジタル資料の長期保存【p1】
デジタル保存に関する技術的視点からの概観【p2-8】
杉本 重雄(筑波大学 名誉教授)
さまざまな文化学術資源がデジタル形式で作り出される現代において、そうしたデジタル資源を将来に残すデジタル保存(Digital Preservation)は、文化学術資源を収集し将来に残す役割を持つ図書館等の機関に与えられた重要な機能である。デジタル情報技術とインターネット環境の進化は非常に速く、そこで作られるデジタル資源の種類も量も急速に増えており、デジタル保存の役割は大きくなっている。本稿では、デジタル保存に関して技術的視点から概観することを目的として、デジタル保存の対象資源と保存機能について論じた後、デジタル保存におけるメタデータについて述べる。
「電子情報の長期利用保証に関する調査研究」経緯や概要そして今回の「国内機関実態調査」の結果と明らかになった問題点等【p9-15】
木下 貴文(国立国会図書館 電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室)
図書館等のGLAM機関がデジタル資料を所蔵するようになるにつれ、その長期的な保存についても課題とみなされるようになってきた。デジタル資料の長期保存は、利用環境の維持の必要性など、紙資料と大きく異なる側面があり、独自のアプローチが重要となるが、国内GLAM機関での取組は進んでいるとは言えない。本稿では、国立国会図書館が2021年度に実施した大規模なアンケート調査の結果に基づき、国内GLAM機関の現況と課題について概観する。また、国立国会図書館での最近の取組についても紹介する。
欧米諸国におけるデジタル保存の取り組み【p16-23】
塩崎 亮(聖学院大学)
欧米では1990年代に文化遺産機関間でデジタル保存に関する危機意識が共有されていき、各種助成団体から支援を受けたプロジェクトが2000年代に本格化していった。結果、デジタル保存に関するシステムの要件整理、第三者認証制度の構築、共通語彙の形成が進められた。これらの基本的な枠組みは現在でも機能しているが、継続的な技術開発とともに、関連組織の再編・合併を伴いながら、国内・国際レベルで持続可能な保存コミュニティのあり方が模索されている。
デジタルデータの長期的な保存とデジタルアーカイブの構築に必要な視点について【p24-29】
山崎 博樹(IRI知的資源イニシアチブ代表理事)
近年においては国や自治体によるデジタル化への取り組みが進み、加えてコロナ禍において活発化したリモートサービスの需要に伴って、図書館や博物館におけるデジタルアーカイブの公開は年々増えつつある状況です。また、丁寧に制作されたデジタルアーカイブは各地域における文化や歴史の普及に貢献し、今後は子供たちへの教育面でもその活用が大きく期待されています。一方、図書館員が必要としているデジタルアーカイブやICTに関する学びの環境は今のところ十分とはいえず、デジタルデータの品質やメタデータの技術的な側面については、その情報が浸透しにくい状況にあります。本稿では図書館におけるデジタルアーカイブ業務を推進する上で役立つ視点をまとめ、デジタル資料を長期的に利活用するために欠かせない事柄を整理し、概説します。
事例紹介・JICA横浜 海外移住資料館における印画紙及びフィルム等の電子化について【p30-36】
横島 文夫、寺地 寛、原 桂樹(キハラ株式会社 資料保存事業推進室)
JICA横浜 海外移住資料館所蔵の印画紙や写真フィルム等の電子化業務をキハラ株式会社にて受託しました。その際、現物資料の保存対策も併せて実施することが当初より資料館様の基本的な方針でした。そこで、対象資料のスキャニング作業に至るまでに実施した現物への資料保存対策について紹介し、併せて印画紙や写真フィルム等の電子化業務における課題について検討します。図書館や博物館において電子化しようとする資料の材質や劣化症状は多様で、それらの保存対策は容易ではありません。しかし電子化作業と現物保存対策との相関性は高く、適正かつ効果的な各種作業を同時に実施することで、歴史的な資料の将来的な活用の場はさらに広がるものと考えます。
図書館や各種専門機関で考えられうる最新のITセキュリティリスクや取るべきセキュリティ対策【p37-40】
佐々木 良一(東京電機大学)
泉大津市立図書館(愛称:シープラ)【p41-46】
河瀬 裕子(泉大津市立図書館)
研究活動の入口と出口【p47-48】
鈴木 尚子(公益財団法人鉄道総合技術研究所 企画室 情報企画)
『図書館創設のための提言』ガブリエル・ノーデ 伊藤敬訳 日仏図書館情報学会【p49-50】
安形 麻理(慶應義塾大学 文学部教授)
『教えて!先生シリーズ 眞野先生。本が傷んだら修理するだけじゃダメってホント?~ストーリーでわかる図書館』眞野節雄/あさな著 DBジャパン【p50-51】
床井 啓太郎(島根県立大学短期大学部)