専門図書館317号(2024年6月)特集:「関東大震災から100年 」
                     ―資料を残し伝える―(詳細)

特集:「関東大震災から100年 」【p1】
「資料を残す」ということの意義:
関東大震災研究30年を通じて思うこと【p2-8】
武村 雅之(名古屋大学減災連携研究センター)
資料というキーワードのもとに、著者が行ってきた関東大震災研究の30年間を振りかえると、残された資料を解析し、新しい事実を明らかにすることからはじまり、次第に資料を残し後世に伝えることの大切さに目覚めてきたことがわかる。人間の本質は文化をもつこと。その文化の基礎は資料を残すこと。その中枢にあるべき機関が図書館や博物館である。現代社会は経済的・物質的文化(文明) に偏在し、その弊害として図書館や博物館の資金難や経営難がある。この問題は、関東大震災後の帝都復興事業で耐震・耐火はもちろん首都としてふさわしい品格をもつ街づくりを目指し、生まれ変わったはずの東京が、今なぜ首都直下地震の恐怖に怯えなければならないのかという疑問にも通じるものである。
市政専門図書館関東大震災100年展示会
「関東大震災と東京の復興」を開催して【p9-15】
井上 学(公益財団法人 後藤・安田記念東京都市研究所 市政専門図書館)
公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所は、関東大震災の 1 年前に創立されたが、震災発生後はその救難活動や復興事業に深く関わった。その結果、市政専門図書館には多くの関連資料が収集され、文献目録の作成や、デジタルアーカイブとして保存や活用がされた。2023年には関東大震災100年展示会「関東大震災と東京の復興」を開催した。新しい資料の発見や、研究者・類縁機関との協力・連携などの成果があった。
関東大震災の資料を残し、伝える ―防災専門図書館の役割を踏まえて―【p16-22】
矢野 陽子(公益社団法人全国市有物件災害共済会 防災専門図書館)
防災専門図書館は、広く一般の方の防災意識の向上を目指して日々資料を収集し、閲覧提供している。また、企画展等の広報活動で、防災対策の重要性を伝えるのも当館の大切な役割である。そこで、本稿では、収集してきた関東大震災関連資料を使った企画展「関東大震災から100年」及び関連事業を紹介し、防災の専門図書館として、資料を残し伝えることの意味を見つめ直した。
3本の矢! 資料と職員が図書館を繋ぐ
―図書館広報連携とブックフェア―【p23-29】
藤崎 美奈(公益財団法人東京都公園協会 みどりの図書館東京グリーンアーカイブス)
日比谷公園という、誰もが一度は聞いたことがあるくらい有名な公園の中には、緑に関する資料に特化した専門図書館があることはあまり知られていない。そんな小さな図書館が、 「関東大震災100年」という共通テーマを他館と共有し、互いの専門領域を理解することにより、大きな繋がりを得ることができた。本稿では日比谷公園内の 3 つの図書館による広報連携、書店でのブックフェア開催、そして図書館総合展までの約 1 年間の取り組みについて報告する。
台東区立中央図書館企画展「関東大震災と復興」を終えて【p30-34】
平野 恵(台東区立中央図書館 郷土・資料調査室専門員)
関東大震災を経験した自治体、台東区に勤める職員として、展示及びイベントの内容を振り返った。資料の内容別に主な展示品を挙げ、講演会・映画上映を含むイベント内容を記した。展示品は、石版画、地図、写真、絵はがきと、資料の内容別に紹介した。展示・イベントを終えて実感したのは、100年という節目で改めて石版画や地図など、20年前と同じ資料を展示したことで別の発見があった点である。
非文字資料が伝える関東大震災
―特別展「大災害を生き抜いて」を事例として―【p35-41】
吉田 律人(横浜都市発展記念館主任調査研究員)
関東地震の発生から100年を迎えた2023年、全国各地の博物館や図書館、文書館等において「関東大震災100年」と関連した企画展示事業が数多く開催された。各館では、文字資料に加え、写真や絵画、出土遺物等を組み合わせた立体的な展示を展開していた。そうしたなか、非文字資料の関しても十分な史料批判が求められる。そこで本稿では、特別展「大災害を生き抜いて」で出陳した中野春之助撮影のガラス乾板写真を中心に、非文字資料活用の実践例を提示した。過去の事象は史料批判に基づく実証的な研究以外に明らかにできない。根拠のない想像や感情論に流されることなく、 「歴史資料は嘘をつく」という前提のもと、批判的な姿勢で歴史資料にむきあっていく必要がある。関東大震災110年、そして120年にむけて取り組むべき課題は多い。
国立映画アーカイブとウェブサイト
「関東大震災映像デジタルアーカイブ」について【p42-48】
とちぎあきら(横浜都市発展記念館主任調査研究員)
国立映画アーカイブでは、映画を芸術作品、文化遺産、歴史資料として捉え、収集から保存・復元、公開・アクセス対応までを担うフィルムアーカイブ活動を行っている。この活動の蓄積を基に、2021年に所蔵する関東大震災関連映画を紹介するウェブサイト「関東大震災映像デジタルアーカイブ」を開設した。本稿では、サイトを構成する 3 つの柱「動画をみる」「コラムをよむ」「資料をみる」の紹介とともに、歴史資料としての映像の価値を高めるための課題を提起する。
宮古市の東日本大震災と災害資料アーカイブについて【p49-53】
山本 正德(宮古市)・上坂 春樹(宮古市)
名古屋市鶴舞中央図書館の見学会を開催して【p54-56】
小室 利恵(トヨタ自動車株式会社 社会貢献推進部 企業・車文化室 学芸・企画1G)
図書館の現場の思いをカタチにする仕事【p57-58】
西村 貴弘(株式会社内田洋行 自治体ソリューション事業部 ユビキタスライブラリー部 ユビキタスライブラリー1課)
70歳のウィキペディアン 図書館の魅力を語る【p59-60】
谷合 佳代子(公益財団法人大阪社会運動協会 大阪産業労働資料館エル・ライブラリー 館長)
日本図書館史概説 新版【p60-61】
佐藤 裕亮(大正大学)